彼女の想い


 僕は体育館裏に呼び出された。下駄箱に忍ばせてあった手紙、「体育館裏で待ってる。」と記された細い字に誘われるそうに、ルンルン気分で体育館へと赴く。
 立っていたのは、クラスの中でも一際大人しく、いわゆる奥手といわれる部類の彼女だった。

「これ、受け取って」
 風に吹かれると掻き消えてしまいそうな小さな声だった。その手には、小さな箱が申し訳なさそうに乗っていた。
 僕が小さな箱を受け取るやいなや、彼女はそのままクルリと回れ右、そそくさと走り去っていった。
「受け取るだけなのか……」

 箱を家に持ち帰り、受け取った箱を開けてみた。入っていたのは、乙女チックな文面でもなく、香しい匂いの菓子でもなかった。たった一つの小さな黒い種だった。 これが何を意味するのかを知るすべもなく、悩んだ挙句、辿り着いた結論は「明日、彼女に聞いてみよう」 という一番簡単で確実な方法だった。

 翌日、学校に彼女の姿は無かった。翌日も、その翌日も、彼女の姿はなかった。プレゼントの意味も分からないまま幾ばくか過ぎた。

 ある日、家に帰ると、何気なく見つめていた種を植木鉢に植えた。



 数日後、植木鉢から花が咲いた、それはきれいな勿忘草だった。